自閉スペクトラムと自閉スペクトラム症ーグレーゾーン再考ー

2016年10月の第57回日本児童青年精神医学会総会で吉田友子が担当した教育講演の内容です。

 

児精学会誌「児童青年精神医学とその近接領域」に2017年に掲載されました。児童青年精神医学とその近接領域 58(4);537─543(2017)

 

この教育講演では、医学診断名とは別の「脳のタイプ名もしくは多様な発達スタイルのひとつ」としての自閉スペクトラムという視点をもつことの有用性を述べています。

 

また、曖昧なままくくってグレーゾーンと命名してしまうことの臨床上の危険性についても私見を述べています。

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自閉スペクトラムと自閉スペクトラム症ーグレーゾーン再考ー
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就労支援の情報更新 2022年10月25日

青年期事例を対象とする精神科医はメンタル不調回避のためライフプランの相談として就労に関与することが多いと思います。発達障害をもつ人たちの就労に関わる国制度や企業の対応は驚くほど変化しつつあり、講演会などでお話しした情報もすぐに更新が必要になります。

 

例えば、就労移行支援事業は2006年の創設当時は大学等在学中からの利用は想定されていなかったと推測されますが、2017年の厚労省通達で在学中でも条件を満たせば利用可能である旨が明示されました。

そのおかげで、在学中から所属に切れ目のないプランを計画することが可能となりました。安心できる所属の確保はASDの青年たちのメンタルヘルスに大きく寄与すると感じています。

大学も、とにかくどこかに就職させるという支援から、準備が必要な学生には準備機関(就労移行支援事業所など)を積極的に卒後プランとして検討してくれるようになりつつあります(大学にも・担当者にもよるとは思いますが)。

 

就労移行支援事業の利用回数にも更新したい情報があります。

本制度の創設時には「2年間の標準期間内の利用」「事業所の移動や就職後の退職時には満期利用していなければ残りの期間のみ利用できる」と障害者就労支援センターや就労移行支援事業者から説明を受けました。

ところが、昨年あたりから、就労・退職後に就労移行支援の再利用を希望した場合に2年間の利用期限が再スタートとなる事例を主治医として複数経験し、他機関からも聞くようになりました。本制度の厚労省説明にはもともと利用回数の明示はなかったのですが、1度きりの利用と複数の就労支援機関から明確に伝えられていたので、再利用を必要とする人たちが出現し実態に応じて運用が拡大したと理解しています。

ただ、主治医として本当に2回目ありという前提で彼らのライフプランの相談に診察で応じていいものか、厚労省の根拠資料を探しているところです。ご存知の方があればぜひお教えください。

 

精神障害者保健福祉手帳所持者が正式に障害者雇用の対象となったのは2018年(わずか4年前)です(それ以前から、みなし雇用は行われていましたが)。

主治医として、幼児期から担当する人たちが大学で就活生になり始めたのは10年くらい前から、大学での臨床業務に携わったのが7年前から。就労関連は主治医として初めてだらけの経験でした。

最近は、うれしい驚きが加速され(特に企業側の制度見直し等の改善)、主治医としての「初めて」経験が日々蓄積されています。

例えば、一般の専門職求人に応募して面接で手帳所持を伝えたらその場で、雇用契約に変更なく、障害者雇用での採用となった例(この手順をお勧めしているわけではありません)や、正社員は管理職業務が前提なので障害特性への配慮として正社員化しないと通告されていたのに(←管理職業務免除が本来の合理的配慮と思いますが)、障害者雇用でも一定期間の勤務継続後は原則正社員化と内規が変更となったり、といったことです。

その一方で、「まだそんなことを!」と主治医として歯ぎしりするような対応も経験します(ただし「障害者雇用ゆえの低賃金」や「能力が発揮されない単純作業のみ」といった不適切を経験することは自分の臨床では稀です)。

 

学童期には家庭が安全基地でありさえすれば学校には行かないというメンタルケアの選択肢があるけれど(それを支援することもとても大変な臨床ですが)、成人期には、たとえ経済の安定が保障されていても、在宅で心身の健康を長期間維持できる人は特別な技能に恵まれたごく少数の人ではないかと感じます。

青年たちは、家庭という最小単位の社会の中での居場所をすでに失っていたり(でも世帯として社会的機能を保っていると福祉も頼れない)、両親の老いや死去によって家庭という社会を失う日が近づいていることを実感しています。青年期(特に学校を離れたあとの生活)では社会とつながる仕組みの確保は喫緊の課題です。

就労は、社会と安定してつながるためのよくできた手段のひとつです。

なぜその役目を福祉でなくて企業に求めるの?というご意見もあろうかと思いますが、それはまた別の長いお話。